Health_Green

 精神科医の斎藤環が「久米書店」(BS日テレ、20160814)で健康のことを話した際、WHOに言及した。

 従来からWHOは健康を「たんに病気でない」ことではないと言ってきた。それをさらに進め、「心身ともにあるいはスピリチュアルにも満たされた状態」という定義をつくったと斎藤氏は話した。

 同様の見解は高城剛の本でもみられる(『2035年の世界』など)。

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 そこで言及される健康の定義は次のものだ

健康とは身体的・精神的・霊的・社会的に完全に良好な動的状態でありたんに病気あるいは虚弱でないことではない

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 一般にもそう思われている。ところが、WHOでこの定義を探しても見つからない。なぜか。

 その理由はこの新しい案(1998年に総会提案されることが可決された)が実際の総会では審議入りせず採択が見送りになったからだ。(経緯

 しかし、この案自体はすばらしいものだ。

Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

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 これを次の、従来の案(=現行の定義)と比べられよ。

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

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 1998年案の特徴は dynamic の語と spiritual の語の追加だ。

 健康を「過程」とみなす考え方からすると、dynamic が入る方がずっとよい。斎藤氏は番組で戦争と平和の喩えをつかい、健康は戦争のような過程だと断言した。それを阻害するものとの戦いとして捉える。

 もし、健康を静的な状態とのみ捉えれば定義は非常にむずかしくなる。というか、「病気でない」などという消極的定義に結局はなってしまう。

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 「満たされた」という言葉は悪くない。けれども、この言葉で健康を定義するのは、同種の言葉で幸福を定義するようなものだ。

 しかし、斎藤氏は幸福も過程であると捉える。つまり、戦争だ。これまでに自分に起きたことを必然であるとし、肯定する。それは一種のアクションだ。(斎藤氏の言葉では Sense of Coherence 〔SOC, 首尾一貫感覚〕と resilience 〔ストレスを成長に変える力〕が重要。さらに、ポジティブ心理学のマーティン・セリグマンによれば PERMA が重要〔Positive emotion, Engagement, Relationship, Meaning, Achievement〕。)

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 spiritual の語は、私に言わせれば、ない方がおかしい。spirit のない人間などあるのか。

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 いずれにせよ、定義のしにくい「健康」を定義する、というのは積極的方向から行う方が消去法的に消極的な定義をするよりずっとよい。