北條一浩編『冬の本』(夏葉社、2012)

fuyu


 愛着がわく本である。冬と本をめぐるエッセー84本を収める。和田誠の装幀は本のよろこびを伝える。

 エッセー1本は2頁の見開きだから、その気になれば、すぐに読み終われるのだろうけれど、気になる本が挙げてあったりすると、つい道草を食ってしまい、なかなか戻ってこられない。

 この84人の選択はかなり豪華だ。執筆者一覧は次の通り。

青山南、秋葉直哉、淺野卓夫、天野祐吉、安西水丸、いがらしみきお、池内紀、池内了、石川美南、井嶋ナギ、伊藤比呂美、伊藤礼、井上理津子、岩瀬成子、上原隆、宇田智子、内堀弘、大竹昭子、大竹聡、大谷能生、岡尾美代子、岡崎武志、荻原魚雷、角田光代、片岡義男、木内昇、北澤夏音、北沢街子、北村薫、北村知之、久住昌之、小林エリカ、越川道夫、小西康陽、近藤雄生、佐伯一麦、柴田元幸、杉江由次、杉田比呂美、鈴木慶一、鈴木卓爾、鈴木理策、曽我部恵一、高橋靖子、高山なおみ、田口史人、竹熊健太郎、武田花、田尻久子、田中美穂、丹治史彦、友部正人、直枝政広、長崎訓子、名久井直子、能町みね子、橋口幸子、蜂飼耳、服部文祥、浜田真理子、早川義夫、平田俊子、平松洋子、文月悠光、穂村弘、堀込高樹、堀部篤史、ホンマタカシ、前野健太、万城目学、又吉直樹、松浦寿輝、町田康、南博、森山裕之、安田謙一、柳下美恵、山崎ナオコーラ、山下賢二、山田太一、山本善行、吉澤美香、吉田篤弘、吉本由美

 評者はこの中にかねて愛読している人たちが沢山いるので本書を手に入れたのだが、実際に読んでみると、むしろ、知らなかったひとびとの文章に驚かされた。これまで知らなかった世界にいざなわれた。幸福な出会いといってもいい。

 読む人によって、誰との出会いが心に残るかは違うだろう。評者にとって、大事な出会いとなったのはつぎの方々だ。

淺野卓夫「霧のなかの図書館で」
安西水丸「城下町での遭遇と夕焼け」
池内紀「感覚の比率」
井上理津子「厳寒の地での不条理な関係に引き込まれる」
大竹昭子「年末の虎刈り」
大竹聡「温かい冬」
岡崎武志「冬の夜のカルテット」
角田光代「冬の光」
木内昇「籠もる」
北村薫「『舞踏会の手帖』」
北村知之「小さな町にて」
小林エリカ「冬、春、冬」
曽我部恵一「うつくしいものたち」
田尻久子「おかえり」
長崎訓子「ゆきを描く」
名久井直子「見知らぬ本が降ってくる日」
橋口幸子「みどり色の本」
服部文祥「獲物哲学」
浜田真理子「ともだち」
早川義夫「冬の本」
文月悠光「真冬の献血車」
堀部篤史「冬のピアノソナタ」
ホンマタカシ「冬の予兆」
前野健太「片山令子『雪とケーキ』」
山崎ナオコーラ「冬眠への憧れ」
山田太一「シオラン」
吉田篤弘「すべての本は冬のためにある。」
吉本由美「『海炭市叙景』が旅の原点。」

 以上を数えてみると28人になる。84分の28だから、打率3割3分3厘。会う人3人ごとに1人ワクワクさせられるって、日頃なかなかないことだと思う。

 なかでも、橋口幸子の文章「みどり色の本」は寺田寅彦の「どんぐり」と同じくらいの衝撃を受けた。『木かげの家の小人たち』というみどり色の表紙の童話をくれた友人の話である。また、詩人の文月悠光が北川草子の短歌について書いた文章も忘れがたい。その歌集は絶版で、そこから引いた9首は貴重だ。エッセーのタイトルは<すずらんの揺れる野原を想いつつ真冬の献血車の中にいる>から。

 若く小さな出版社夏葉社が出した7冊目が本書である。<まちのパン屋さんみたいな>出版社を目指すという。<お客さんの顔が見えて、顔馴染みがいて、それでいてすべての人に開かれていて、誰でも気軽に立ち寄れる。そういう出版社でありたいと思っています。>と、島田潤一郎さんはインタビューで語る。応援したくなってくる。


冬の本
天野祐吉
夏葉社
2012-12-12