Robert Galbraith, The Cuckoo's Calling (2013)

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 ロバート・ガルブレイス名義で2013年4月に発表された探偵物第一作。高評価を得たもののそれほど売れていなかったのが、7月に実はJ・K・ローリングが作者と明かされてからあっという間にベストセラーに。


 ひょっとすると、ハリー・ポター・シリーズ全七巻を質量とも上回るシリーズになるかもしれない。質については今後の作品の出来を見るしかないが、量のほうは著者が息の長いシリーズにしたいという意向なので可能性は高い。[著者サイトで7巻以上になると示唆されている。]両シリーズには興味深い共通点(ジャーナリズム、犯罪小説的要素、悩める者・疎外された者への共感など)が指摘されてもいるので比較する研究もこれから出てくるだろう。現代の古典になりそうな予感がする。

 本作は警察が自殺と断定した事案をめぐるミステリである。スーパーモデルの飛び降りとされたケースについて、その兄が再調査を探偵に依頼する。調査の過程で怪しそうな人物がいっぱい出てくる。緻密な聞き取り調査でのやりとりのおもしろさがベースになり、モデル業界周辺のまばゆい雰囲気がそこにまぶされる。

 英ガーディアン紙の書評(Mark Lawson, 18 July 2013)で「恐るべき語り部」(formidable storyteller)の表現が使われていたが、実際、本作におけるガルブレイス(=ローリング)の筆力はすさまじい。英語としての密度の濃さ、緩急自在の運び、緊張と笑いのバランス、人物を浮彫りにする修飾語句(特に形容詞と副詞)の見事さ等々、唸らされる箇所が多い。

 私立探偵の名はコーモラン・ストライク(Cormoran Strike)。軍隊警察の出身だが、アフガニスタンで右足を失った巨漢。なぜか女にもてる。会話の名手。探偵助手はロビン(Robin)。派遣会社から送り込まれた臨時の秘書だったが、ストライクとの息はぴったり。婚約者がストライクのことを胡散臭く思っているので、いつまで続くかというところだが、このコンビの関係は本書の隠された見所である。

 今は事件というと警察が捜査するパタンが定番になりつつあるが、こうした探偵物が現代に蘇るのはうれしい。濃厚な推理劇のファンにも薦めたい。




日本語訳がある↓