上田明子『英語の発想―明快な英文を書く』岩波書店 同時代ライブラリー300、1997)

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 本書は絶版で、この種の本としてはめずらしく高値で取引されているから、おそらく需要があるのであろう。しかし、どこにもレビューらしきものがなく、内容を知りたい人もいると思うので、簡潔に述べてみよう。

 パラグラフ・ライティングという言葉がある。英文を書く際にパラグラフ(段落)を基礎的ブロックとして組上げる手法のことである。そのブロック間の論理や関係にも意をくだく。そこまでは通常のパラグラフ・ライティング教本に説かれるとおりである。英文というものがパラグラフを単位として書かれ読まれていることから必然的に導かれる。

 その先が問題だ。パラグラフの内部は実際にはどう書くか。一般に各パラグラフにはトピック・センテンス(主題文)があるとされ、その主張を支持文が展開してゆくとされている。だが、いったい、具体的にはどう展開するのかについて、実例をまじえた、分りやすい指南書が中々ない。だから、それを談話分析の成果も踏まえつつ、丁寧に説いた本書が今でも探され続けているのだろう。

 書き方の概念はおおよそはっきりしている。つまり、内容をどう展開するかという理念については。しかし、英文を書く人にとって、実際に知りたいのは、ではどうやって文と文とをつないでゆけばよいのかということである。そこのところを、はっきりとした見解で示した文章構成法の本は本書以前にはなかった。

 本書は、トピック・センテンスからパラグラフに発展させるという従来いわれていた方法にくわえて、情報の流れの視点から各文の構成を考える。そこに談話分析(discourse analysis)が活かされている。

 そのための具体的方法として、シーム(theme)とリーム(rheme)とを詳しく扱っている。これがのみこめると、英文を読む際にも書く際にも、またおそらく聞いたり話したりする際にも、ずいぶん頭の中が明快に整理されると思う。類書がないので、ぜひ復刊してほしい。