荻原規子RDG レッドデータガール はじめてのお使い』(角川文庫、2011)

Ogiwara-RDG1

 日本の児童文学には少ないといわれる長篇の第1巻。中学生の日常から悠久の時の流れを感じさせる不思議な物語。

 太古の日本より伝承されてきたあめつちの神秘に対する畏敬の念、明治以降すがたを消した山伏や修験道が隠された深い山のたたずまい。都会やコンピュータなどの現代的要素もそれらの前に無効化される日本の風土、そこに息づく霊性。携帯も扱えず店にもはいったことのない女子中学生が現代文明と接触するときの戦き。これらが美しい日本語で滔々と綴られる、まことに面白い物語だ。

 題名のRDGはRDBをひねったもの。レッド・データ・ブックは国際自然保護連合が1966年に初めて発行した、絶滅のおそれのある野生生物の情報をとりまとめた本。つまり、本書の主人公は「絶滅危惧少女」。

 鈴原泉水子(すずはら いずみこ)がその少女。この少女は一見すると、引っ込み思案なだけの女子中学生に見える。が、彼女をとりまく環境、彼女のまわりに勃発する不思議な事象などを見ていると、ただならぬことが起こりつつあると感じさせられる。

 日本の風土に根ざしたファンタジーとして、抜きん出たおもしろさがある。何かのプロットにしたがうのでなく、自然力のしからしめるままに展開してゆく流れが心地よい。主人公の少女の玉のような存在感の高みと反比例するような、低く恐ろしい闇が根元に広がり、その振幅の大きさが物語に深い陰翳を与えている。

〔冒頭の「あめつちのよりあひのきはみ」は万葉集巻第11、2787です〕





RDGレッドデータガール はじめてのお使い (角川文庫)
荻原 規子
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-06-23