ボブ・ディランは、あなたは何者か? ソングライターか、それとも詩人か? という問いを何度か受けている。


 1965年には、こう答えた。

I think of myself more as a song-and-dance man.

 人を食った答えである。「ソング=アンド=ダンス・マン」の意味するところはディランですら知らないに違いない。彼が踊っているところなど、見たこともない。訊いた記者をからかっているとしか思えない。

 彼の詩人としての自意識の高さは、「ディラン」と名乗った時点ですでに明らかだ。ウェールズの大詩人ディラン・トマスから採ったからだ。(自分の名前は「ボブ」の部分だけ。彼の本名はロバート・アレン・ジママン。ボブはロバートの愛称。「ディラン」はケルト神話の海の神。ウェールズ語で「海」の意。)

 彼はこう自分を規定したこともある。

sixties troubadour

「(19)60年代のトゥルバドゥール」というのは、さっきの「歌って踊れる男」より、よほど素直な言い方だ。もっとも、60年代の、と限定した時点で、自分は過去の人だから放っておいてくれとの皮肉も透けて見える。

 1964年の 'Another Side of Bob Dylan' のアルバムに入っている 'I Shall Be Free No. 10' ではこう唄う。

Yippee! I’m a poet, and I know it 
Hope I don’t blow it 

 この 'I'm a poet' の言は自虐的にもひびくけれど、その前の年のアルバム 'The Freewheelin' Bob Dylan' のライナーノーツではこう書いている。

Anything I can sing, I call a song. Anything I can't sing, I call a poem. 

 彼が自分をどう捉えているかはともあれ、1996年以来ずっと、ボブ・ディランはノーベル文学賞の候補である。[2016年ノーベル文学賞を受賞した。]

 英文学者クリストファ・リックス(「現存する最も偉大な文芸批評家」といわれる)はボブ・ディランを評して、歴史上最高の詩人の一人で、ミルトン、キーツ、テニスンに匹敵すると言っている。リックスはディラン論 Dylan's Visions of Sin (2004) を書いている。

 この本はよく売れているようで、ハードカヴァ、ペーパバック、Kindle の3種類が出ている。ぜんぶ表紙がちがう。Kindle 版の表紙がかっこいい。

DylansVisionRicks